いままさに飛行機が墜落しようとしている。
覚悟した男は紙とペンをとった。
殴り書きのようになにかを書きつけ、それを飲み込んだ。
飛行機は墜落した。
瓦礫の中から発見された男の遺体。
口の中に紙切れのようなものが見える。
そこには3つの女性の名が書かれていた。
とある女流作家が現場を訪れる。
警察の知り合いから風変わりな紙切れの話を聞く。
作家はその3人の女性たちを探しあてたいと思う。
取材が始まった。
作家は男の足跡をたどり、3人の女性たちへのアプローチを模索する。
職場の同僚、残された家族、地元の友人たちに会いに行く。
しかし、3人の女性たちのことを尋ねてみても、みな一様に首をかしげる。
出てくるのは違う名前の女性たちばかりである。
男にはこれといった異性の友人はいなかった。
すぐに恋人になってしまうからである。
男はその短い生涯で多くの女たちを愛した。
千差万別、あらゆるタイプの女性が男の人生を彩った。
そのうちの何人かには会うことができ、男との関係を聞くことができた。
ほかの何人かには会うことができず、電話口で「あの男の話はしないで」と悪態をつかれた。
作家はなかなか3人の女性たちにたどりつくことができない。
3つの名前は男が本気で愛した女たちのものなのか。
捜索が暗礁に乗り上げてから数日後、事態は進展する。
密輸事件である女が捕まった。
ニュースで流れたその名前に見覚えのあった作家はやっと足がかりを見つける。
面会を申し込み、男のことを尋ねる。
かつて同じ犯罪グループにいたことがあり、男とは兄妹のように息が合ったという。
殺し以外の犯罪はすべてやった、と女は言った。
グループのブレーンとして、知的な計画を練る男に女はほのかな想いを抱いていた。
しかしある日、男は忽然と姿を消した。
だれも男のその後を知る者はいなかった。
ふたりめの女はすでに亡くなっていた。
双子の妹のアパートを訪ねた作家は、そのあまりの美貌ぶりに狼狽えた。
すぐ後ろに10歳ぐらいの男の子がおびえた顔を覗かせている。
姉は男と5年ほど一緒に暮らした、と妹は言った。
暮らし始めてすぐに男の子が生まれた。
仕事が忙しい女に変わって家事は男がすべて担っていたという。
一人息子を残して、女は自動車事故で亡くなった。
不倫相手の運転する車の助手席で、即死だった。
最後の女は、意外な場所で見つかった。
(no idea...)
女たちの話から、男のさまざまな人格が見える。
人はみななんらかの意味で多重人格である。
ときに優しくときに激しく。