重い虚しさ

ナルシスは川面に映ったみずからの姿に憧れ、分裂を無化するためにその鏡面へ飛び込んだ。

ふたつの影が重なり合った瞬間、彼らの姿は粉々に砕け散った。

いまや愛することは破滅を意味する。

 

ここ数年、大学教員の常勤職の公募にトライし続けている。

先日、めずらしく面接に手応えを感じ、やっと職にありつけるかと思ったら、今回も結局ダメだった。

もう少しで手が届きそうで、やっぱり届かなかったときの悔しさといったら。

 

あらゆる執着を捨てよ。

とは言うけれど。

去年と何も変わっていない。

まるで成長していない。

生まれてはみたけれど。

 

12月になると毎年、御堂筋はきらきらとした電飾でライトアップされる。

クリスマスの雰囲気は大好きなのに、わたしにとってそれは冷血な美しさとでも言いたい、もの悲しい何かであり続けている。

 

25歳から28歳まで付き合っていた恋人はメキシコに留学していた。

メキシコの民族衣装の研究者で、年はわたしよりふたつ上。

現地の山奥の村に勇猛果敢に単身で乗り込むヴァイタリティ溢れる女性だった。

彼女の一時帰国中に付き合うことになり、彼女の方はあちらに置いてきたイケメンメキシカン彼氏と別れることになった。

うつらうつらと夢見心地のわたしの横で、ポチポチと別れの挨拶を打ち込んでいた彼女を思い出す。

 

付き合った当初、わたしは日本にいたが、その後すぐにわたしもフランスへ留学したため、日本とメキシコ、フランスとメキシコで遠距離恋愛を経験した。

昼夜逆転の生活でもメールやテレビ電話を駆使してなんとか楽しくやっていた。

たまに会えない寂しさを呪い、街のイルミネーションを一緒に見たいとつぶやいたこともあった。

無理とはわかりながら、たまには愚痴っぽく言わせてほしかった。

街をゆくカップルはあんなに幸せそうなのに、わたしはあなたに会えない。

あなたに会いたい。

 

相手のことを考えているようでいつも自分のことばかり考えていた。

情けないことにそんな身勝手さは今でも何も変わっていないと思う。

何年経っても同じことの繰り返し。

 

声が聞きたいと言うのはいつもわたしから。

おやすみを言うのはいつもあなたから。

なかなか電話を切らないわたしをあなたは笑った。

 

日本に帰国してから彼女は美術館の学芸員として働くことになった。

今度は国内での遠距離恋愛が始まった。

他に好きな人ができたわたしは、すぐに別れ話を切り出した。

好きになった人にはフラれた。

またも藪から棒に嵐を呼んで、ふたつの心をしっちゃかめっちゃかにしただけだった。

 

どんな言葉を吐いてもみても、ただただ虚しい。

虚しく虚しい、虚しさに満ちた人生だ。

 

あなたの翼に乗ってわたしも天高く飛んでみたかった。

わたしの重みであなたは飛べなくなった。